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第4話 猛獣

Author: 文月 澪
last update publish date: 2025-05-06 17:57:48

 階段の踊り場で、足を止める。手すり越しに下を覗けば、取り巻きの女が何か耳打ちしていた。

(は、ご親切なこって)

 俺はそれを見ながら鼻で笑う。

 2年の時に停学食らって、久しぶりに登校してみたら、校内は『オウジサマ』の噂で持ち切りだった。

 才色兼備、眉目秀麗、品行方正。

 チヤホヤされて浮かれている馬鹿。そいつの化けの皮を剥がしてやろうと近付いてみたが、ありゃ本物の馬鹿だな。誉め言葉の裏側にあるエゴに気付いてねぇ。

 チラリと手に持ったハンカチに視線を落とすと、可愛さの欠けらも無い地味なチェック柄。確か剣道部って話だし、与えられたものに疑問も持たずに従ってるだけなんだろな

 周りの奴らも気に食わない。ああいう奴らは、勝手に描いた『オウジサマ像』を押し付け、それと違う反応をされと理不尽に怒るんだよな。

(ホント、馬鹿みてぇ)

 ハンカチをポケットに突っ込み、階段を昇って教室に入る。もう担任が来ていて、睨みつけてきた。

「瀬戸、もうホームルームは始まっているぞ。ただでさえ留年ギリギリなんだ、少しは真面目になれ」

 虚勢を張っているが、声がぶれていて尻込みしているのが丸分かり。俺は鼻を鳴らして適当な返事で応える。

「お、おい! 瀬戸!」

 担任を放置して、自分の席に足を向けると、今度はクラスメイトの視線が刺さる。嫌悪と畏怖が混じった視線には、もう慣れてしまった。

 いつからだろう、こんな扱いをされるようになったのは。

 昔は普通だった。友達と公園でサッカーしたり、集まってゲームしたり。

 それが中学に上がった途端、チャラついた奴らが絡んでくるようになった。俺は背が低いから、制服もダボダボで弱っちく見えたんだろうな。カツアゲのいい的にされて、反抗すると殴られる。

 それがしばらく続いた後、なんだかアホらしくなって殴り返したら、そいつらは呆気なく地べたに這いつくばった。

 それ以降は、違う意味で絡まれる事になる。

 俺に負けた奴が、上を引き連れてお礼参りに来たんだ。

 でも、俺はそいつらにも勝った。

 その後はご覧の通り、腫れ物扱いだ。いつの間にか不良のレッテルを貼られ、俺を頭と呼ぶ奴が群れてくる。いくら殴り倒しても、そいつらは俺に着いてきた。

 そうして、俺は名実共に『猛獣』になった訳だ。

 悪意が充満する教室を、俺は堂々と歩く。音を鳴らして椅子に座り、机の上に足を投げ出した。それでも誰も何も言わない。

 白々しい担任の声を聞き流しながら『オウジサマ』を思い浮かべる

――あいつが、俺の正体に気づく日が楽しみだ。

 俺の口元は、知らず弧を描いていた。

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